雑多庵 ~映画バカの逆襲~

管理人イチオシの新作映画を紹介するブログです。SF、ホラー、アクション、コメディ、ゲーム、音楽に関する話が多め。ご意見・ご感想、紹介してほしい映画などあれば「Contact」からメッセージを送ってください。あと、いいお金儲けの話も募集中です。

今回紹介するのは1985年製作のロシア産戦争映画『炎628』です。

クエンティン・タランティーノが第二次大戦ものではベストだと語った作品でもあり、とにかく見た後のダメージが凄まじい映画です。これから観ようという方は覚悟して観ていただきたい。

今回筆者が観たのは「キネカ大森」という映画館での『ファニーゲーム』との二本立て。この劇場は西友の中に入っているんですよね。映画をみて夕飯のお買い物をして帰ることもできるというわけですよ。このあたり、ショッピングモールの中に入っていることの多いシネマコンプレックスよりも庶民感があって楽しい。新作の上映もありますが、二本立ての興行を常にやっている最近では貴重な名画座でもあります。

628
戦争映画マニアな人にとっては有名な作品なのですが、いかんせんレンタルであまり出回っていないために見る機会はなかなかないと思います(DVDは日本版が発売されています)。細かな歴史的な解説をしようとするとボロが出てしまいそうですし、第二次大戦関連、ナチス関連の本はたくさんあるので、気になった方はそちらで補足してください。調べてから書くのもありなのですが、本作の場合は中学の歴史ぐらいの知識があれば十分ですし、何も知らなくても重みは伝わってきます。

1943年のドイツ占領下の白ロシアでの出来事。
少年が兵隊の真似事をして遊んでいたところ、土に埋まっていたライフルを見つける。少年は兵士にあこがれがあるのか、母親の必死の生死も聞かずにパルチザン(占領軍に対する抵抗軍。ゲリラみたいなもん)に入ってしまう。「国の独立のために戦うぞ!」そんな気持ちで始めたリアル戦争ごっこ。だが、少年は戦争の恐ろしさ、戦時下の人間がいかに残酷になれるのかをまだ知らなかった・・・。

少年は入隊しても子ども扱いは変わらず、進軍中に置いてけぼりにされてしまう。どうしようもないので家に帰ることにした少年だが、途中で少女に出会って少しだけ楽しい思いをする。少女とともに家に帰った少年だが、なぜか家には誰もいない。やたらと飛び回るハエ・・・。異変に気付いた少年は村の避難所へと駆けていく。ふと少女が振り返ると家の裏手には死体の山が築かれていた。

沼地の先にある避難所へ向かって泥だらけになりながら突き進む少年。「皆殺されたなんて嘘だ!きっと家族は避難しているはず!」だが、その希望は無残にも打ち砕かれる。生き残った村の人によれば、ライフルを掘り起こして持ち帰ったのを目撃されていたらしく、少年の家族は反逆者として近隣住民もろとも抹殺されてしまったのだ。それを聞いて自責の念に駆られる少年。周囲がいかに「お前のせいじゃない」と言うが慰めにはならない。一気に老け込んだ表情となる少年。。。

ここまででも十分強烈なのですが、後半では戦争映画史上最悪ともいえそうな人類の蛮行が描かれます。
以下では結末に関しても触れているので、ネタバレが嫌いな人は読まないように!

↓映像で見ないと重みが伝わりきらないと思うので、気になったら買って観るべし!!


食料調達の最中で仲間たちは死に、少年は一人でどこかの村にたどり着く。
そこに霧の中から現れる兵士たち・・・ドイツ軍だ!ドイツ軍たちは村の人々を集会所に押し込める。
そして、窓から手榴弾を投げ込んだ!すかさず火炎瓶を投げまくる!一気に火に包まれる集会場!追い打ちをかけるがごとく機関銃やライフルの一斉射撃を加えるドイツ軍!おまけに火炎放射!生きたまま焼かれる人々の絶叫が響く中、酒と音楽で異常にテンションの高いドイツ軍はとにかく楽しそうに虐殺を行うのだった・・・タイトルにある「628」とは、このようにして住民ごと焼かれた村の数である。なぜ、ドイツ軍はここまでの虐殺行為ができたのだろうか?その答えの一部は終盤で提示される。

あれだけの虐殺行為をしていたドイツ軍だが、パルチザンの襲撃にあっさりと敗北。
「俺は無理やり協力させられていただけだ!」と叫ぶ白ロシアの人間、虐殺を指導しておきながら「部下が勝手にやった!私は平和主義者なんだ!戦争が悪いんだ!」と命乞いを始めるジジイがいる中、一人のドイツ兵はこう言う。
「すべては子供から始まる。共産主義は下等人種に宿る。だからお前らを絶滅させてやる。根絶やしにしてやる!必ずだ!」
人を人とも思わず、絶滅させるべき下等な存在と考える。この思い込みのパワーこそが虐殺の原動力の一部となったことは間違いないだろう。ナチスといえばユダヤ人強制収容所が有名だが、あれはユダヤ人を効率よく絶滅させるためのシステムだ。ナチスは本気で民族を絶滅させようとしていたのだ。

この後は皆さんの予想通りの復讐展開です。ドイツ軍は極悪非道だけど、復讐するロシア側も怖い感じ、後味の悪い感じが何とも言えません。最後の場面も強烈です。生き残ってしまった少年は落ちていたヒトラーのポスターに向かってライフルを向けます。やり場のない自責の念をポスターに撃ちこみます。それと対応するようにヒトラーの様々な演説や、強制収容所、戦争で破壊される建物の記録映像が逆再生されます。どんどん戻っていく映像はヒトラーの赤ちゃんのころの写真で止まります。そこで少年は撃つことをためらうのです。ドイツ兵の言葉を思い出されます。

「すべては子供から始まる」

ヒトラーもかつては子供でした。この赤ちゃんを殺すことができれば虐殺は起こらないのかもしれません。
でも、それでいいの?

最近、ネットで欧米人に「タイムマシンで過去に行けたら赤ちゃんのヒトラーを殺すか?」とのアンケートに過半数の人が「殺す」と答えたとの記事を見かけました。では、ヒトラーを殺すのが正解なのでしょうか?ヒトラーに投票してナチスに政権を握らせてしまったドイツ国民に非はないのでしょうか?ドイツ軍と同じように「根絶やし」にすることが正しいのでしょうか?色々と考えさせられるラストです。

とにかく、重たいので観た後はぐったりします。虐殺場面では人類の野蛮さを徹底的に見せられるので、勘弁してほしくもなりますが、戦争について考えたい人にはぜひとも観てほしい作品です。これを見ても戦争楽しそうとか、ナチス最高!とか言える人はまずいないでしょう。上映素材がフィルムだったこともあって製作者のナチスへの恨み、戦争への憎しみが伝わってくるものがありました。フィルムだと経年変化で傷がついたり、色が変わったりするし、なによりデジタル素材と違ってモノなので色々な人の情念を吸い取っている感じがするんですよ。

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