書きたい映画のネタが新作でなかなかないんすよ。観てはいるけど、なんかガツンとくるものがない。
なので、今回は最近まとめて買って読んだ漫画の紹介。
故・深作欣二監督が『バトル・ロワイヤル』の時のインタビューで映画化したいと言っていた漫画『ザ・ワールド・イズ・マイン』です。これは雑誌自体の名前は無くなってしまった小学館「ヤング・サンデー」に1997年から2001年まで連載されたもの。作者は新井英樹さん。他の作品に第38回小学館漫画賞青年一般部門を受賞した『宮本から君へ』や『愛しのアイリーン』などがあります。
ちなみに今回筆者が読んだのは2006年に加筆修正が施されてエンターブレインから復刊された「真説」の方。
概要
映画でイメージするならば『ナチュラル・ボーン・キラーズ』が近いと思う。何の躊躇もなく邪魔な人間を殺し、ヤりたいときには即レイプ、背中にまで毛が生えたまさに野蛮そのものの男「モン」。パソコンオタクで弱っちい雰囲気だが、お手製爆弾を作るスキルのある「トシ」。この二人が「トシモン」というコンビとなって北を目指して日本縦断爆破ツアーをするのが中心となる話。トシモンの破壊活動と並行して描かれるのが、北海道に出現し、遮るものを徹底的に破壊しつくす怪物「ヒグマドン」。日本、さらには世界中を巻き込んで暴走し続ける二つの破壊者を通してマスメディア、政治、暴力、正義、愛、生命など様々なテーマを描いた壮大なウルトラ・バイオレンス・ワールド。それが『ザ・ワールド・イズ・マイン』である。
生々しいホラ話
「ヒグマドン」?怪獣漫画かよ?アホか?と思った人、正解です。
この漫画ははっきり言って荒唐無稽なホラ話です。んなアホなってなるキャラクターや展開はそこかしこにあります。壮大にしすぎじゃねーか?とか、モンちゃんが神格化しすぎじゃね?とか、『デビルマン』のような終末世界等、終盤の展開やエンディングはリアルとは言い難いものですが、本作はこのホラ話を成立させるために異常なまでにディテールを描いています。例えば、背景一つとっても実景を参考に看板や遠くにあるものまで細かく描き、実景のないはずの一般家庭の部屋もどこかで見たことがあると感じられる物の配置、物の選定がされています。自分が見知った日常の風景が描いてあるので妙な生々しさが感じられるというわけ。この点、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』はわざと幻想的な描き方をしているので生々しさや痛さはあまり伝わってこない。『ザ・ワールド・イズ・マイン』の暴力が痛々しいのはこの描きこみがあってこそ。女子供であっても容赦なく殺される世界の痛さを突き付けられます。
死んだ人の人数や日数など数字にこだわり、死体や人体破壊の描写の細かさ、数コマしか出てこない人にもセリフを与え、背後にあるその人の人生を匂わせるなどディテールのこだわりは異常です。
ディテールが生きた展開として印象に残っているのが、殺人犯の親としてマスコミに追い詰められていくトシの両親の描写。加害者側の家族に対して世間がどう反応するかのシミュレーションがガチです。
濃ゆいキャラクターたち
ディテールにこだわりぬいた世界に登場する登場人物はどれも強烈。東北が舞台となり、「トシ」は大阪の出身だったりするので標準語がほとんど出てこない笑 多くのキャラクターが方言でしゃべる時点で強烈だが、トシモンに人質をとられて突入の判断ができずに逆に犠牲者を増やしてしまい、人命尊重の矛盾に悩む刑事、ヒグマドンを狩るために奮闘する元兵士でマタギの爺さん、マスメディアを利用したパフォーマンス的な演説でトシモンに対抗する総理大臣など、出てくる人間皆が奥行きがある存在で、しかも強烈なセリフを吐きまくから読む側の体力も要求される濃ゆさだ。例えるならラーメン二郎の全マシマシ状態に豚増量まで加えた状態である(食べきれんわ!)。
ぶたダブル 900円 野菜マシマシ・にんにくマシマシ(池袋東口店のサイトのメニューより)
聖人になるモン、野蛮になるトシ
本作で一番細かく描かれているキャラクターはトシと言えると思います。中流家庭に育ち、学業成績は中の上、高卒で郵便局に勤め、淡々とした生活を送っていたトシ。退屈な日常に不満を持つわけでもなく、人生にドラマを要求せず、趣味はパソコンと使う当てのない爆弾づくり。休日は梶井基次郎の『檸檬』のごとく爆弾を持って徘徊すること(『檸檬』は本当の爆弾ではないが)に仕事にないスリルを感じる。ここまでならオタク青年にありがちなパターンだ。せいぜいで犯罪者予備軍止まり。だが、トシはモンに出会ってしまった。自分の力=爆弾に意味を与えてくれる存在、どこまでも野蛮で圧倒的な力にほれ込んでしまった。そこから始まる蛮行の数々。野蛮の世界に足を踏み入れたトシの生き様を見てやってくれ!俺は極悪になっていくトシに自分を見出してしまってきつかった!そして、トシと逆行するように教化されていくモン・・・。最後の方はトシが可哀そうで仕方ねぇ。
映画化してぇぇ!!
そういうわけで、『ザ・ワールド・イズ・マイン』は筆者にとって非常に面白い漫画でした。
深作監督が映画化したがったのも納得。
昔から漫画を読むときは脳内で映像化しながら読むんだけど、この漫画は脳内映像がすごいことになった。
実写のイメージが読んでいるだけでどんどん膨らむんですよ。それだけイメージにあふれたパワーがある作品ってこと!これは実写映画になったらスゴイことになるのは間違いない。ロケット砲の爆発、怪獣による大破壊、強烈な演説シーン、どれも映画的にオイシイ場面ばかり!深作監督は死んでしまったけど、日本映画界にも根性のある監督はわずかながらもいるからまだイケる。お金をかける価値のある企画だと思うんだが、どうよ?少なくとも、俺の脳内映像は傑作だった。とはいっても今の日本映画界の規模だとお金が集まらないだろうなぁ。いっそレジェンダリー・ピクチャーズ(2014年版ゴジラ、ダークナイト三部作、パシフィック・リムなどを手掛けた制作プロダクション)に頼むしかないか?笑
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なので、今回は最近まとめて買って読んだ漫画の紹介。
故・深作欣二監督が『バトル・ロワイヤル』の時のインタビューで映画化したいと言っていた漫画『ザ・ワールド・イズ・マイン』です。これは雑誌自体の名前は無くなってしまった小学館「ヤング・サンデー」に1997年から2001年まで連載されたもの。作者は新井英樹さん。他の作品に第38回小学館漫画賞青年一般部門を受賞した『宮本から君へ』や『愛しのアイリーン』などがあります。
ちなみに今回筆者が読んだのは2006年に加筆修正が施されてエンターブレインから復刊された「真説」の方。
概要
映画でイメージするならば『ナチュラル・ボーン・キラーズ』が近いと思う。何の躊躇もなく邪魔な人間を殺し、ヤりたいときには即レイプ、背中にまで毛が生えたまさに野蛮そのものの男「モン」。パソコンオタクで弱っちい雰囲気だが、お手製爆弾を作るスキルのある「トシ」。この二人が「トシモン」というコンビとなって北を目指して日本縦断爆破ツアーをするのが中心となる話。トシモンの破壊活動と並行して描かれるのが、北海道に出現し、遮るものを徹底的に破壊しつくす怪物「ヒグマドン」。日本、さらには世界中を巻き込んで暴走し続ける二つの破壊者を通してマスメディア、政治、暴力、正義、愛、生命など様々なテーマを描いた壮大なウルトラ・バイオレンス・ワールド。それが『ザ・ワールド・イズ・マイン』である。
生々しいホラ話
「ヒグマドン」?怪獣漫画かよ?アホか?と思った人、正解です。
この漫画ははっきり言って荒唐無稽なホラ話です。んなアホなってなるキャラクターや展開はそこかしこにあります。壮大にしすぎじゃねーか?とか、モンちゃんが神格化しすぎじゃね?とか、『デビルマン』のような終末世界等、終盤の展開やエンディングはリアルとは言い難いものですが、本作はこのホラ話を成立させるために異常なまでにディテールを描いています。例えば、背景一つとっても実景を参考に看板や遠くにあるものまで細かく描き、実景のないはずの一般家庭の部屋もどこかで見たことがあると感じられる物の配置、物の選定がされています。自分が見知った日常の風景が描いてあるので妙な生々しさが感じられるというわけ。この点、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』はわざと幻想的な描き方をしているので生々しさや痛さはあまり伝わってこない。『ザ・ワールド・イズ・マイン』の暴力が痛々しいのはこの描きこみがあってこそ。女子供であっても容赦なく殺される世界の痛さを突き付けられます。
死んだ人の人数や日数など数字にこだわり、死体や人体破壊の描写の細かさ、数コマしか出てこない人にもセリフを与え、背後にあるその人の人生を匂わせるなどディテールのこだわりは異常です。
ディテールが生きた展開として印象に残っているのが、殺人犯の親としてマスコミに追い詰められていくトシの両親の描写。加害者側の家族に対して世間がどう反応するかのシミュレーションがガチです。
濃ゆいキャラクターたち
ディテールにこだわりぬいた世界に登場する登場人物はどれも強烈。東北が舞台となり、「トシ」は大阪の出身だったりするので標準語がほとんど出てこない笑 多くのキャラクターが方言でしゃべる時点で強烈だが、トシモンに人質をとられて突入の判断ができずに逆に犠牲者を増やしてしまい、人命尊重の矛盾に悩む刑事、ヒグマドンを狩るために奮闘する元兵士でマタギの爺さん、マスメディアを利用したパフォーマンス的な演説でトシモンに対抗する総理大臣など、出てくる人間皆が奥行きがある存在で、しかも強烈なセリフを吐きまくから読む側の体力も要求される濃ゆさだ。例えるならラーメン二郎の全マシマシ状態に豚増量まで加えた状態である(食べきれんわ!)。
ぶたダブル 900円 野菜マシマシ・にんにくマシマシ(池袋東口店のサイトのメニューより)
聖人になるモン、野蛮になるトシ
本作で一番細かく描かれているキャラクターはトシと言えると思います。中流家庭に育ち、学業成績は中の上、高卒で郵便局に勤め、淡々とした生活を送っていたトシ。退屈な日常に不満を持つわけでもなく、人生にドラマを要求せず、趣味はパソコンと使う当てのない爆弾づくり。休日は梶井基次郎の『檸檬』のごとく爆弾を持って徘徊すること(『檸檬』は本当の爆弾ではないが)に仕事にないスリルを感じる。ここまでならオタク青年にありがちなパターンだ。せいぜいで犯罪者予備軍止まり。だが、トシはモンに出会ってしまった。自分の力=爆弾に意味を与えてくれる存在、どこまでも野蛮で圧倒的な力にほれ込んでしまった。そこから始まる蛮行の数々。野蛮の世界に足を踏み入れたトシの生き様を見てやってくれ!俺は極悪になっていくトシに自分を見出してしまってきつかった!そして、トシと逆行するように教化されていくモン・・・。最後の方はトシが可哀そうで仕方ねぇ。
映画化してぇぇ!!
そういうわけで、『ザ・ワールド・イズ・マイン』は筆者にとって非常に面白い漫画でした。
深作監督が映画化したがったのも納得。
昔から漫画を読むときは脳内で映像化しながら読むんだけど、この漫画は脳内映像がすごいことになった。
実写のイメージが読んでいるだけでどんどん膨らむんですよ。それだけイメージにあふれたパワーがある作品ってこと!これは実写映画になったらスゴイことになるのは間違いない。ロケット砲の爆発、怪獣による大破壊、強烈な演説シーン、どれも映画的にオイシイ場面ばかり!深作監督は死んでしまったけど、日本映画界にも根性のある監督はわずかながらもいるからまだイケる。お金をかける価値のある企画だと思うんだが、どうよ?少なくとも、俺の脳内映像は傑作だった。とはいっても今の日本映画界の規模だとお金が集まらないだろうなぁ。いっそレジェンダリー・ピクチャーズ(2014年版ゴジラ、ダークナイト三部作、パシフィック・リムなどを手掛けた制作プロダクション)に頼むしかないか?笑
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