雑多庵 ~映画バカの逆襲~

管理人イチオシの新作映画を紹介するブログです。SF、ホラー、アクション、コメディ、ゲーム、音楽に関する話が多め。ご意見・ご感想、紹介してほしい映画などあれば「Contact」からメッセージを送ってください。あと、いいお金儲けの話も募集中です。

以前も書いた気がしますが、映画の世界にはいいゲロ吐きシーンのあるものは良作という法則があります。

とりあえず思いついたものを列挙しますと、
『エクソシスト』『スタンド・バイ・ミー』『マイノリティ・リポート』『チーム・アメリカ ワールドポリス』『キックアス2』『フィルス』『A KITE』『逆徒』など、いずれの映画でもパワフルなゲロ吐きシーンが見られます。特に、『スタンド・バイ・ミー』で見られる超絶ゲロ場面は「もらいゲロ」という、連鎖するアクションが見られて非常に楽しく、質・量ともに最高です。『スタンド・バイ・ミー』が名作なのは皆さんご存知の通りでしょう?

優れたゲロ吐き(すげぇ言葉w)の条件は様々ですが、筆者としては生々しさと、その場面における必然性とインパクトですね。

今回紹介する押切蓮介原作『ミスミソウ』ではそんないいゲロ吐きがあり、田舎の怖さがあり、雪原の美しい情景があり、血みどろの暴力があり、なおかつ青春映画としても優れているという傑作です。これは必見ですよ!

misumisou

舞台は雪深い田舎町。
父の転勤で東京から引っ越してきた野咲春花は学校で激しいいじめを受けていた。人口が少なく、娯楽もない土地で生まれ育ったクラスメートにとって東京モンの春花はそれだけで「ムカつくやつ」であり、廃校が決まっていて生徒が十数人しかいない環境では逃げ場がなかった。靴をなくされることは当たり前、机に落書き、カラスの死体を置かれるなど、陰湿ないじめが組織的に行われる中、担任は聞こえないふり、見えないふりを続ける始末。担任は生徒に詰め寄られると思わず吐いてしまうという、インパクトのあるシーン(なかなかいいゲロ吐きですが、後半もっといいのがきます!!)が序盤から来ます。
不登校になることで卒業までやり過ごそうとしていたものの、そう甘くはなかった。いじめグループによって別のターゲットが生まれ、そこから最悪の事態に発展する。家を家族ごと焼かれ、すべてを失った春花はついに行動を起こす。雪原が血に染まり、惨劇の舞台と化す田舎町。春花に救いの時は訪れるのだろうか・・・

雪原の風景が印象的な作品です。

雪景色の開放的なようで身動きのとれない窮屈さが田舎の閉鎖的な感じを表していますし、そこで繰り広げられる血みどろの暴力シーンの数々が白と赤の強烈なコントラストとなっていてある種の美しさも感じられます。人によってはコーエン兄弟の代表作『ファーゴ』、およびそのドラマ版を思い出すかもしれません。寒々とした雪原と強烈な暴力の組み合わせといえば『北陸代理戦争』、最近だと『レヴェナント 蘇りし者』もありました。

『ミスミソウ』の場合は上記の映画と比べても暴力のハードさは際立っており、10代の少年少女による刃物や鈍器中心の暴力はかなり痛々しく、生々しいものです。切り身にするがごとくナイフをサックサックと刺したり、イクラを口の中で潰すがごとく釘を眼球に向かってグチュ!頭がジャガイモみたいに凸凹になるまで滅多打ち!など痛いのなんのって!
特筆すべきはやられた側の反応で、いきなり刺されたことを受け入れられなかったり、威勢のいいやつが暴力を受けた瞬間に弱気になったりします。殺意のこもった暴力を受けたら怖いのは当然ですが、意外とその部分が映画で描かれることは少ないため本作の暴力の生々しさが際立つことになっています。生徒役の皆さん、いい死にっぷりです。寒い中での撮影はスタッフ、キャストともにとてつもなく体力を消耗するものですが、それを雪の中で決行し、さらに体力を使う暴力シーンを行うという二重のハードな現場が生み出す空気感が強力な映像を作り出すのかもしれません。

出演者の皆さんはそれぞれいい演技をしているのですが、なんといっても主人公役の山田杏奈さんが素晴らしい。殺る時は殺る、容赦なし。これを表情だけで感じさせる気迫のある方でした。大物の風格があるので、今後いろいろな映画で見ることになるでしょうね。

本作を手掛けたのは内藤瑛亮監督。
自主映画出身監督で2012年の『先生を流産させる会』で一気に有名になりました。『高速ばあば』『パズル』『鬼談百景』など主にホラー界隈での活躍が目立っていますが、『ライチ☆光クラブ』『ドロメ』、先の『先生を流産させる会』などで描いている学生を取り巻く社会、環境、大人と暴力といった描写の深さにはリサーチと巧みな演出が感じられます。『ミスミソウ』の監督に決まったのは撮影開始の一か月前という異常な形での参加だったそうですが、準備期間のなさを感じさせない完成度はさすが。もっと大きな映画を手掛けてもおかしくない実力のある方だと思います。『ワールド・イズ・マイン』の映画化ならば内藤監督がいいと思っているのですが、だめですかねぇ?

まさかと思われるかもしませんが、暗くて救いのないホラー作品ではなく、さわやかな感覚を持った青春映画として見ることができる映画です。不思議とさわやかな空気が流れるエンディングを見届けてください。青春の痛みとしては強烈過ぎるかもしれませんが、この春の暖かい陽気の中、新生活を始めた学生の皆様にぜひとも見てほしい作品です。

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