底意地の悪い厭展開でホラーファンに衝撃を与えた『ヘレディタリー 継承』のアリ・アスター監督の新作『ミッドサマー』が日本でも公開中。
白夜の時期のスウェーデンの田舎で、90年に一度行われる祭りに参加することになったアメリカン人の大学生たちが大変なことになってしまうが、白夜だから常に明るいというのが特徴の本作。
明るい中でもそこは『ヘレディタリー』の監督なので厭な感じは健在。
音楽や効果音を効果的に使い、サラウンド音響による音響設計も巧みなのも同じなため、『ヘレディタリー』が面白かった方はとりあえず見てみることをお勧めする。
「習慣の違う田舎の人たちの祭りは都会の人間にとっては恐ろしい」というと、なんだか田舎ホラーのようだが、実際に見てみるとどうにも違う。この映画なんだろうなぁ・・・と考えていたら一本のゲームと似通った構造を持っていることに気づいた。それは1993年に発売されたシルキーズ制作のPCゲーム『河原崎家の一族』だ。
以下、『ミッドサマー』と『河原崎家の一族』のネタバレを含むため注意
※『河原崎家の一族』は成人向けの作品(要するにエロゲーです)だが、この文章内に成人向け表現を含んだ画像はないので、未成年の閲覧も特に問題ないと考える。扱っているものの内容を鑑みて一応R-18と表記しているだけなので、エロCG目当てならば他をあたってくれ。
『ミッドサマー』でなんだか違和感があると思ったポイントはストックホルムから自動車で4時間もかかるド田舎なのに、妙にクリーンで外部の人間にもオープンなところだ。
ド田舎というのは基本的に外部の人間との交流は少なく、外部の人間は「余所者」として奇異の目で見られるか、迫害の対象になるものである。もちろん、極端な見解なのは認めるが、実態としてそうなのだから仕方ない。田舎ホラーの傑作『悪魔のいけにえ』は明らかに余所者を殺しにかかっているし、『ミッドサマー』の元ネタの一つと考えられる『ウィッカーマン』も余所者と村人の構造は出来上がっている。
だが、『ミッドサマー』のホルガ村はどうも外部の人間に寛容すぎる。
90年に一度の村にとって重要な祭りでその儀式の中には自殺ショーまで含まれているというのに、外部の人間を割と軽い感じで招待(しかも主人公一向以外にもいる)している時点でどうにも怪しい。まるで外部から人間が来るのを最初から期待しているようではないか。それに90年に一度なら祭りを経験したことがある人間はよほどの高齢者以外いないはず。なのに、若い世代含めて村人全員が既に祭りの進行に慣れているような様子となると、90年どころか数年に一度は確実に行っていると考えられる。
そもそも、薬草や野菜などを売って維持して後は自給自足している北欧のド田舎のコミュニティーからアメリカの大学に留学している人間がいるというのも変だ。手作り家具が高価で取引されているアーミッシュならまだしも、あの程度の規模の農地だけで大所帯を支えることは現代では不可能だ。この時点で、私は別の収入源、もしくは高値で取引される特殊な農作物、例えば大麻のようなドラッグを栽培しているのでは?と疑った。実際、作中でも村で栽培された薬草から作られたドラッグを使用したトリップ状態でダンス大会を行う場面がある。かなり強力な効き目のため、村で使うだけではなく、外に売ればそれなりの収入は期待できそうだ。
ここまで疑い始めると疑いの連鎖が止まらない。
ド田舎から海外に留学しているのはいいとして、それが複数人いるのは外部の人間を連れてくる口実なのでは?クリーンで白すぎる村の建物は映画の予算が足りないんじゃなくて、最近作ったからじゃないか?食事もセックスも財産も共有ってマンソンファミリーみたいだね!終始にこやかで他のメンバーが邪魔ものっぽく扱っていても異常に優しい彼は最初からこのエンディングを予想して動いていたんじゃないのか?・・・・etc。
こうやって疑うと分ってくるが、ホルガ村は外部と隔絶された田舎ホラーの舞台というより、カルト教団の施設だ。
教団の会員を増やす(特に若い女性はセックスの相手として貴重)ことを効率的に行い、会員の財産を捧げさせることで教団の収入源とするのはカルト教団の手口である。その際にドラッグによる洗脳を行うこともよく聞く話だ。ドラッグ漬け、セックス漬けで思考を奪い、邪魔になったら教団の敵として排除。「外部から人を連れてきて、女性はドラッグ漬けでまともな思考奪い、男は子孫を作るための精子提供者として利用して抹殺」している点でホルガ村はカルト教団と変わらないのだ。外部との接触を前提とした構造が見えてしまったのが田舎ホラーとしての最大の違和感だった。
田舎ホラーとして見た場合の違和感に答えが出たところで、『河原崎家の一族』との一致点を確認してみよう。このゲームの舞台となる河原崎家とホルガ村は驚くほどに似通ったものだ。
『河原崎家の一族』は河原崎家のバイトの使用人として雇われた斉藤 六郎がやってくるところから始まる。プレイヤーは六郎として選択肢を選びつつ行動していくのだが、夜になると聞こえてくる女の叫び声が気になって見ると奥様が緊縛プレイをしているところを発見。ただの変態夫婦だろうと思っていたが、その後も家の人間(同僚のメイドも含む)が性的に異常な行為にふけっているのを目撃してしまう。そして、それを目撃している六郎もまた河原崎家の異常な性態に取り込まれていく・・・
といったものだが、性的に異常なのも一応理由があり、河原崎家で栽培している媚薬効果のある特殊な薬を利用して性的に興奮状態にしているというのだ。河原崎家は家にやってきた人間を薬を使って調教したうえで取り込み、邪魔になれば即殺害して広大な敷地に埋めるというのを繰り返している。そういうことを繰り返すうちに、河原崎家の血筋を受け継いだ「本当の河原崎家」は絶えてしまい、元メイドが奥様に成り代わり、元運転手が河原崎家の使いきれないほどの財産を管理するに至っている。
ここで『ミッドサマー』を思い出してみよう。
「外部からやってきた人をドラッグ漬けにすることで、コミュニティーに迎え入れる集団」を描いたホラーという点で似ていないだろうか?加えて、『ミッドサマー』で「女王」となる女性が外部の人間というのは、『河原崎家~』の元メイドが奥様になる構造と近い。さらに、『ミッドサマー』に歴代の「女王」の写真が飾ってあるシーンが登場するが、『河原崎家~』では歴代のメイドたちの写真が飾られているシーンが存在する。劇中では説明されていないが、なんだか、歴代の女王は全部外の人間なんじゃないかと思えてきたぞ・・・。ついでに言っておくと、家が燃えて終わるところまで同じだ。ここまで一致していると、『ミッドサマー』は『河原崎家~』を参考にしたのかと思えてくるが、おそらく偶然。ただ、根っこの部分では同じようなテーマを扱った作品と考えるべきだと思う。
『河原崎家の一族』では家から脱出することで苦い思いとともに一応のハッピーエンドとなるが、いくら晴れやかであろうとも『ミッドサマー』は決してハッピーエンドではない。確かにエンディングで主人公は憑き物が落ちて解放されたような表情をしている。しかし、彼女は集団に取り込まれたことに気づいていない。きっと、彼女は率先して外部の人間を取り込むようになるだろう。そして、集団はさらに膨張していく。行きつく先は「ホルガ村」という名前に依っただけの空虚な集団だ。それは河原崎家と何ら変わらない。外部を取り込み続けることでオリジナルを失ってもなお、思想だけが膨らんでいく異常な集団を描いたホラー、それが『河原崎家の一族』を通して見えた『ミッドサマー』の正体だ。
『河原崎家の一族』の制作母体だった株式会社エルフは現在解散しており、DMMがコンテンツの管理を行っている。DMM.comにてWindows10に対応したダウンロード版が発売されているため、興味のある人は購入してみることをお勧めする。クリアまでのプレイ時間が割と短く5,6時間程度、CG回収などを含めても10時間要らないぐらいだ。エロ表現も(今の基準で考えれば)それほど過激ではないため、あまり人を選ばずにプレイ可能だと思う。興味を持たれた方は是非プレイしてみてほしい。
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白夜の時期のスウェーデンの田舎で、90年に一度行われる祭りに参加することになったアメリカン人の大学生たちが大変なことになってしまうが、白夜だから常に明るいというのが特徴の本作。
明るい中でもそこは『ヘレディタリー』の監督なので厭な感じは健在。
音楽や効果音を効果的に使い、サラウンド音響による音響設計も巧みなのも同じなため、『ヘレディタリー』が面白かった方はとりあえず見てみることをお勧めする。
「習慣の違う田舎の人たちの祭りは都会の人間にとっては恐ろしい」というと、なんだか田舎ホラーのようだが、実際に見てみるとどうにも違う。この映画なんだろうなぁ・・・と考えていたら一本のゲームと似通った構造を持っていることに気づいた。それは1993年に発売されたシルキーズ制作のPCゲーム『河原崎家の一族』だ。
以下、『ミッドサマー』と『河原崎家の一族』のネタバレを含むため注意
※『河原崎家の一族』は成人向けの作品(要するにエロゲーです)だが、この文章内に成人向け表現を含んだ画像はないので、未成年の閲覧も特に問題ないと考える。扱っているものの内容を鑑みて一応R-18と表記しているだけなので、エロCG目当てならば他をあたってくれ。
『ミッドサマー』でなんだか違和感があると思ったポイントはストックホルムから自動車で4時間もかかるド田舎なのに、妙にクリーンで外部の人間にもオープンなところだ。
ド田舎というのは基本的に外部の人間との交流は少なく、外部の人間は「余所者」として奇異の目で見られるか、迫害の対象になるものである。もちろん、極端な見解なのは認めるが、実態としてそうなのだから仕方ない。田舎ホラーの傑作『悪魔のいけにえ』は明らかに余所者を殺しにかかっているし、『ミッドサマー』の元ネタの一つと考えられる『ウィッカーマン』も余所者と村人の構造は出来上がっている。
だが、『ミッドサマー』のホルガ村はどうも外部の人間に寛容すぎる。
90年に一度の村にとって重要な祭りでその儀式の中には自殺ショーまで含まれているというのに、外部の人間を割と軽い感じで招待(しかも主人公一向以外にもいる)している時点でどうにも怪しい。まるで外部から人間が来るのを最初から期待しているようではないか。それに90年に一度なら祭りを経験したことがある人間はよほどの高齢者以外いないはず。なのに、若い世代含めて村人全員が既に祭りの進行に慣れているような様子となると、90年どころか数年に一度は確実に行っていると考えられる。
そもそも、薬草や野菜などを売って維持して後は自給自足している北欧のド田舎のコミュニティーからアメリカの大学に留学している人間がいるというのも変だ。手作り家具が高価で取引されているアーミッシュならまだしも、あの程度の規模の農地だけで大所帯を支えることは現代では不可能だ。この時点で、私は別の収入源、もしくは高値で取引される特殊な農作物、例えば大麻のようなドラッグを栽培しているのでは?と疑った。実際、作中でも村で栽培された薬草から作られたドラッグを使用したトリップ状態でダンス大会を行う場面がある。かなり強力な効き目のため、村で使うだけではなく、外に売ればそれなりの収入は期待できそうだ。
ここまで疑い始めると疑いの連鎖が止まらない。
ド田舎から海外に留学しているのはいいとして、それが複数人いるのは外部の人間を連れてくる口実なのでは?クリーンで白すぎる村の建物は映画の予算が足りないんじゃなくて、最近作ったからじゃないか?食事もセックスも財産も共有ってマンソンファミリーみたいだね!終始にこやかで他のメンバーが邪魔ものっぽく扱っていても異常に優しい彼は最初からこのエンディングを予想して動いていたんじゃないのか?・・・・etc。
こうやって疑うと分ってくるが、ホルガ村は外部と隔絶された田舎ホラーの舞台というより、カルト教団の施設だ。
教団の会員を増やす(特に若い女性はセックスの相手として貴重)ことを効率的に行い、会員の財産を捧げさせることで教団の収入源とするのはカルト教団の手口である。その際にドラッグによる洗脳を行うこともよく聞く話だ。ドラッグ漬け、セックス漬けで思考を奪い、邪魔になったら教団の敵として排除。「外部から人を連れてきて、女性はドラッグ漬けでまともな思考奪い、男は子孫を作るための精子提供者として利用して抹殺」している点でホルガ村はカルト教団と変わらないのだ。外部との接触を前提とした構造が見えてしまったのが田舎ホラーとしての最大の違和感だった。
田舎ホラーとして見た場合の違和感に答えが出たところで、『河原崎家の一族』との一致点を確認してみよう。このゲームの舞台となる河原崎家とホルガ村は驚くほどに似通ったものだ。
『河原崎家の一族』は河原崎家のバイトの使用人として雇われた斉藤 六郎がやってくるところから始まる。プレイヤーは六郎として選択肢を選びつつ行動していくのだが、夜になると聞こえてくる女の叫び声が気になって見ると奥様が緊縛プレイをしているところを発見。ただの変態夫婦だろうと思っていたが、その後も家の人間(同僚のメイドも含む)が性的に異常な行為にふけっているのを目撃してしまう。そして、それを目撃している六郎もまた河原崎家の異常な性態に取り込まれていく・・・
といったものだが、性的に異常なのも一応理由があり、河原崎家で栽培している媚薬効果のある特殊な薬を利用して性的に興奮状態にしているというのだ。河原崎家は家にやってきた人間を薬を使って調教したうえで取り込み、邪魔になれば即殺害して広大な敷地に埋めるというのを繰り返している。そういうことを繰り返すうちに、河原崎家の血筋を受け継いだ「本当の河原崎家」は絶えてしまい、元メイドが奥様に成り代わり、元運転手が河原崎家の使いきれないほどの財産を管理するに至っている。
ここで『ミッドサマー』を思い出してみよう。
「外部からやってきた人をドラッグ漬けにすることで、コミュニティーに迎え入れる集団」を描いたホラーという点で似ていないだろうか?加えて、『ミッドサマー』で「女王」となる女性が外部の人間というのは、『河原崎家~』の元メイドが奥様になる構造と近い。さらに、『ミッドサマー』に歴代の「女王」の写真が飾ってあるシーンが登場するが、『河原崎家~』では歴代のメイドたちの写真が飾られているシーンが存在する。劇中では説明されていないが、なんだか、歴代の女王は全部外の人間なんじゃないかと思えてきたぞ・・・。ついでに言っておくと、家が燃えて終わるところまで同じだ。ここまで一致していると、『ミッドサマー』は『河原崎家~』を参考にしたのかと思えてくるが、おそらく偶然。ただ、根っこの部分では同じようなテーマを扱った作品と考えるべきだと思う。
『河原崎家の一族』では家から脱出することで苦い思いとともに一応のハッピーエンドとなるが、いくら晴れやかであろうとも『ミッドサマー』は決してハッピーエンドではない。確かにエンディングで主人公は憑き物が落ちて解放されたような表情をしている。しかし、彼女は集団に取り込まれたことに気づいていない。きっと、彼女は率先して外部の人間を取り込むようになるだろう。そして、集団はさらに膨張していく。行きつく先は「ホルガ村」という名前に依っただけの空虚な集団だ。それは河原崎家と何ら変わらない。外部を取り込み続けることでオリジナルを失ってもなお、思想だけが膨らんでいく異常な集団を描いたホラー、それが『河原崎家の一族』を通して見えた『ミッドサマー』の正体だ。
『河原崎家の一族』の制作母体だった株式会社エルフは現在解散しており、DMMがコンテンツの管理を行っている。DMM.comにてWindows10に対応したダウンロード版が発売されているため、興味のある人は購入してみることをお勧めする。クリアまでのプレイ時間が割と短く5,6時間程度、CG回収などを含めても10時間要らないぐらいだ。エロ表現も(今の基準で考えれば)それほど過激ではないため、あまり人を選ばずにプレイ可能だと思う。興味を持たれた方は是非プレイしてみてほしい。
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