雑多庵 ~映画バカの逆襲~

管理人イチオシの新作映画を紹介するブログです。SF、ホラー、アクション、コメディ、ゲーム、音楽に関する話が多め。ご意見・ご感想、紹介してほしい映画などあれば「Contact」からメッセージを送ってください。あと、いいお金儲けの話も募集中です。

実写映画の話題を最近ほとんど書いていないから、いつの間にかアニメ専門ブログと思われている雑多庵でございます。

相変わらず世間は最低最悪を更新し続けていて厭な気分MAXですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

映画館はまともに営業できていないわ、呑み屋にも死刑宣告のような事態になっているわで気分が悪いですが、今回紹介する『アオラレ』はそんなイライラを多少解消してくれるかもしれない楽しい映画です。

aorare

夫と別居している子持ちのお母ちゃんが息子を学校に送ろうとするものの、道は大渋滞、仕事には遅刻してお客にブチギレられて最悪の気分です。高速も混んでいるので諦めて下道を行こうとするも、黒塗りでデカいピックアップトラックが信号変わっても動かねぇ!
しびれを切らしたお母ちゃんはクラクションをバリバリ鳴らしつつ、追い越して前進するのでした。
しかし、またしても渋滞に引っかかり、信号待ちになってしまったところに先ほどの車がぬるりと登場。運転手のラッセル・クロウ(体重マシマシEdition)が睨みつつ「おい、ネーチャンようぅぅぅ、さっきのは失礼じゃないかいィィィ??」と言ったところから悪夢のような一日が始まるのでした。

タイトルが示している通り、恐怖の煽り運転男であるラッセル・クロウがどこまでも追いかけてきて超怖いスリラーです。邦題は正直ダサいものの、ハイコンセプトな映画の内容を端的に示していて良いんじゃないかと。

ある程度映画に詳しい方ならご存知だとは思いますが、本作の導入部はスティーブン・スピルバーグの初長編『激突!』(1971)に似たものです。あちらはノロノロトラックにたまらず追い越しをしてしまった男がどこまでも追いかけられ続ける恐怖を描いた作品でした。
顔の見えない運転手と怪獣のように描かれるトラックの凶暴さが印象的で、荒野を舞台にした追いかけっこだけで構成しきった若きスピルバーグの演出力が冴えわたる傑作です。『アオラレ』の方はと言いますと、単に『激突!』をトレースするわけではなく、複数のツイストを加えているところが現代の映画らしい仕上がりです。

その第一の違いは舞台を街中に設定したこと。『激突!』は他の車はほとんど登場せず2人の攻防戦に絞っていましたが、街中で他の車が走っていたり、裏道があったりとロケーションの変化が多く、他の車をなぎ倒しつつ突っ込んでくる絵面は煽り運転の暴力性が際立っていてとても怖い。交通量が多いため、一度自動車事故が起きると玉突き事故も複数発生して大惨事になってしまう恐怖の連鎖もたっぷり堪能できます。車の運転経験があるひとならばヒエッツとなること請け合いですよ。『激突!』の匿名性と一対一のシチュエーションが生む神話らしさは『アオラレ』にはありませんが、恐怖映画としてのサービスはたっぷりとありますので、サービスは有難く受け取っておけばいいのです。

第二の違いは情報戦の存在。本作では常に追いかけっこをしているわけではなく、主人公のお母ちゃんはある時点でスマホをラッセル・クロウに取られてしまうのです。まずいことに、スマホにはパスワードを設定していないというセキュリティもへったくれもない状態で、個人情報は見られ放題。自分の職業、家族の住所、預金口座、息子の通う学校などあらゆる情報がバレまくり!スマホを取られただけなのに!!
ここから車の追っかけっこによる肉体的な恐怖以上の精神的恐怖が高まっていき、ラッセル・クロウの行動もエスカレートします。何をするかは見てのお楽しみ!

第三の違いは運転手が顔の見える存在なこと。見えない存在故の恐怖もありますが、横幅を2倍にしたようなラッセル・クロウが追いかけてくると考えると、顔が見える方が怖かったりします。
そもそも煽り運転を仕掛けてくるような相手は大半が普通のオヤジです。顔の見える存在です。その辺にいるような存在だから余計に怖い、ということも言えると思います。
恐怖の煽り運転男として劇中で登場するオヤジも、色々と仕事や家庭が上手くいかなくてブチギレてしまった割と普通なオヤジなのです。
その行動は極端が過ぎますが、このぐらいのことをする人も少なからずいると思えてしまうのが現代の怒りを抱えた人々の恐ろしさです。ジョエル・シューマカー監督、マイケル・ダグラス主演の『フォーリングダウン』(1992)に登場するオヤジもまた、仕事も家庭も上手くいかずキレてしまいますがそこにはまだユーモアを入れる余地がありました。しかし、『アオラレ』が描く今のアメリカにはそんな余裕はありません。皆が必死に生きることを要求されているのです。失敗が続けば落伍者とされ、立ち上がるチャンスもありません。そうこうするうちに高まった他者への不寛容な感情が暴力として表出する瞬間が煽り運転なのかもしれません。

きっかけはちょっとした口論でもとんでもない暴力に発展しうることを教えてくれる映画です。シンプルなスリラーとして楽しめる映画ですが、今のアメリカの問題を切り取ることに成功した映画でもあります。時には怒ることも必要ですが、一瞬だけ冷静になることを心がけて皆さんもどうかご安全に。


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