1985年の映画『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』のリメイクが、約1年の延期の末に公開されました。リメイクのあり方は色々ありますが、本作のアプローチはストレートかつ、非常に質の高いもので大満足の出来でした!
「宇宙小戦争(リトルスターウォーズと読みます)」という、どう考えてもジョージ・ルーカスのあの映画を意識したようなタイトルの本作ですが、ストーリーもちょっとそれ風だったりします。
財力にものを言わせて夏休みの間に特撮映画(ミニチュアやグリーンバックを利用した合成まで実践する超本格派!)を自主製作するスネ夫、ジャイアン、出木杉とおまけののび太。例によってハイパードジっ子なのび太は撮影の足を引っ張ってしまい、邪魔物扱いされてしまうのでした。そんなのび太が拾った謎のロケットっぽいものから小人が出てきたからさぁ、大変。しかもその小人が別の惑星の大統領で独裁政権によるクーデターから逃れてきたというから、いきなり宇宙規模の話に発展します。
小人の少年パピ君は地球人に迷惑をかけるわけにはいかないと、最初はドラえもんたちの協力を拒むのですが、持前のお人よしスキルによって、のび太を始めとしたドラえもん一行は独裁政権との戦いに挑んでいくのでした。
オリジナルを越える
1985年のオリジナル版は芝山努監督、藤子不二雄原作・脚本で制作されたもので、戦闘描写もたっぷりとした非常に楽しい作品でしたが、今見直してみると冗長な部分が前半に多く、後半はキーパーソンとなるはずのパピ君の存在感が薄れてアイツどうしたっけ?となってしまう物語上の問題も含んだ映画でした。大人と違って忖度のないストレートな感覚を持っているキッズからは厳しい感想が出てくるかもしれません。
面白いのだけれど問題もあるオリジナルに対して、2021年リメイクは面白い部分を活かしつつ、前半の冗長な部分をタイトにまとめ上げ、後半の物語上の問題点を解決していく正攻法で挑んでいます。大筋としては変わっていないのですが、細部を調整することでオリジナルのポテンシャルを引き出し、完成度を上げることに成功しているのです。
映画は時代との結びつきが強いもので、リメイクの際にはそのままでは古臭く感じられる問題があります。そのため、多くのリメイク映画は時代設定を変えたり大幅に設定を変更して制作されることも多いのですが、そうした結果「昔の方が良かった」という感想が出てきがちというジレンマを抱えています。ほとんど設定も展開も変えずにキャラクターの解釈や所々のセリフを補強するだけで今の映画として成立させつつ、オリジナル以上の完成度を達成できている本作は稀有な例と言えるでしょう。
独裁者には負けんぞ!
オリジナルから補強された点の例を一つ上げると、後半のパピによる演説シーンの存在があります。オリジナルではアクションシーンの後で何となく終わってしまうやや消化不良のエンディングでしたが、リメイクで追加されたパピの演説シーンによって、市民の独裁者への抵抗の意志に火が付く展開がオリジナルで描き切れていなかった「自由のための戦い」というテーマを明確にできています。
その他にも細かな点でより良い作品になるような調整が施されていて、脚本の佐藤大さんの本作への貢献度の高さはかなりのものだと思います。
主題歌は髭男
オリジナル版ではレジスタンスの一人が歌う武田鉄矢による主題歌が印象的で、学生運動を想起させられましたが、本作では劇中に流れるのはなぜかビリーバンバンの曲。歌詞の内容的にもピンと来なかったので、どういった理由でビリーバンバンの楽曲を使用していたのかがよく分からなかったです。。。
劇中の歌に関しては疑問があったものの、Official髭男dismによる主題歌「Univerce」は素晴らしかったです。昨年から発表されていた楽曲ではありますが、どうやら本作のために制作された楽曲らしく、歌詞に注目してみると作品との結び付きが感じられます。2コーラス目は映画では使用されていなかった気がしますが、作品とのリンクした歌詞になっているので是非フルで聞いてください。
キッズが楽しめる映画は最高
ドラえもんの映画ということもあって、当然ながら映画館はファミリーで見に来ている方を多く見かけたわけですが、大きなお友達な筆者としては子どもたちの反応が気になりました。ドラえもん映画は子どもの映画館デビュー作品となる場合も多いため、映画に対するフレッシュな反応が見られる瞬間なのです。そこでの反応がイマイチだと、その後の人生における映画に対する印象も悪くなってしまうでしょう。なるべく映画文化が存続して欲しい自分としては、子どもたちが楽しめる映画の存在を強く願っています。
では、実際の映画館での反応はというと、所々で笑いが起き、途中で飽きる様子もなく集中してみていることが伝わってくる良い雰囲気がありました。驚いたことに、終演後には拍手も起こっていて素直に子どもたちが楽しめる作品だったのだと分かりました。やはり、子どもが楽しめる娯楽映画というのは偉大です。この文章を執筆している2022年3月13日時点で現実の世界でも侵略戦争が起きている状況ですが、独裁者にNOを突きつける本作が子どもたちに喜んでもらえていることに自分も勇気づけられた気がします。
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