雑多庵 ~映画バカの逆襲~

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新年早々最高に気分の良くなる野蛮な映画を見られたので紹介する。


10世紀のスカンジナビア諸島が舞台となった復讐劇である。王の弟が起こした内乱によって王は殺害され、その息子である主人公アムレートは逃げ延びた。自分のすべてを奪った叔父を絶対に許さない。父の敵を討ち、母を救い出すのだ。

それから数年後、屈強なバイキングの戦士として成長したアムレートは捕えた奴隷たちの売り先が叔父の領土であると知る。奴隷に紛れて密航し、叔父の下に奴隷として買われることに成功したアムレートだが、果たして復讐は果たされるのか?

物語の導入部分がウィリアム・シェイクスピアの4大悲劇の一つ『ハムレット』に似ていること、主人公の名前がハムレットの元ネタと言われている『デンマーク人の事績』の主人公と同じであることで、批評でもよくそのことが言及されている。確かにシェイクスピアを意識していることは随所で感じられるし、やや古臭い言い回しの英語も時代ものっぽさを強調していてそれらしさは十分だ。

そのため、歴史ものにありがちな真面目でスローな展開があるのではと警戒してしまうところだが、心配は無用。本作の主人公はバイキングである。野蛮でアッパーな北欧神話の世界を生きる人々がそんな退屈なものを見せるとお思いか?

バイキングといえば略奪である。当然、主人公がバイキングとして村に攻め入るシーンがあるのだが、この戦いぶりが素晴らしい。毛皮を被って接近、接敵した見張りの兵が投げてきた槍をキャッチして投げ返す!そこから一気に攻め入り、防壁を登って、敵を倒す!倒す!!手斧を使った重みのあるアクションが素晴らしく、鍛え上げた主演アレクサンダー・スカルスガルドの肉体も合わさってアーノルド・シュワルツェネッガー主演『コナン・ザ・グレート』を彷彿させる。とはいえ、彼らはコナンとは違って英雄ではない。捕虜は奴隷にするか、家屋ごと焼き討ちにする『炎628』スタイルの虐殺っぷりである。戦いが終われば火を囲んで皆で酒も入れて勝利の雄叫びを上げるのだ。太鼓がドコドコ鳴り響く音楽が見ているこちらの気分もアッパーにさせてくれる。



とにかくアッパーな思考で生きる人々の話なので、移動もストロングスタイル。なにせ、主人公は叔父の下に船が向かったと聞けば速攻で死体から奴隷の服を奪い取り、泳いで船に追いつく根性の持ち主だ。とにかくせっかちな人なのか、北欧の寒そうな海にも迷わず飛び込むところにバイキングの屈強さを感じた。

バイオレントな表現が多く、首チョンパ、内蔵デロデロが詰まった映画ではあるのだが、要所でマジカルな表現が登場するのも特徴的。意味深に現れるカラス、祈祷師、幻覚を見ているような表現がリアルな空気感の中で差し込まれている。本作の監督ロバート・エガースの過去作『ウィッチ』や『ライトハウス』でも見られた表現ではあるのだが、作中でこれらの意味を説明することもほとんどしないため、意味不明なものにも見られるかもしれない。これは、本作の根底に北欧神話の世界があることを理解していると意図がわかりやすくなる。


北欧神話についてここで特に補足しないが、日本のオタクたちは『ヴィンランド・サガ』を知っているだろうし、ゲーマーならば『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』や『アサシン クリード ヴァルハラ』で本作の世界観を理解するだけの知識は十分持っているはずだ。


北欧神話についての理解は重要だが、その中でも重要なのはバイキングたちが信じている「ヴァラハラ」の概念だろう。戦場で散った戦士の魂を戦乙女が回収し、連れて行ってくれる戦士の楽園ヴァルハラ。そこにたどり着くことが戦士の最大の栄誉なので、戦いの中で死ぬこと自体に悲壮感は無い。かように血気盛んな世界に生きる彼らにとって、木に縛られた男の死体(劇中にそういうセリフがあります)を神と崇める異教徒たちは異常な集団に見えたことだろうし、実際敵対勢力として略奪の対象としていたようだ。本作は当時北欧に生きる人々の宗教観や風俗に関する描写もきっちりと行ってくれるため、見ていて勉強になる点も多い。

ただ、一点気になったのは裸がたくさん出てくるのにほとんど見せようとしないところ。エロいものを見せろと言っているわけではないのだが、あそこまで見せないのはむしろ不自然な感もあった。

野蛮なアクションを詰め込みつつも、北欧の文化も描いた歴史劇としての強度の高い本作だが、ラストの決闘シーンの風景は現実感があるようでないようなマジカルなものとなる。あれ、どっかで見たスターウォーズ?と言いたくなったが、そこは見てのお楽しみ。復讐に燃えるアムレートの戦いの終わりを見届けよ!

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