「日常系」と呼ばれる作品はアニメのサブジャンルとして一般的になりましたが、アニメで描かれるいつまでも続く平和な日々が現実世界の再現かと言われると必ずしもそうではありません。
現実は理不尽な暴力や悲劇を人生にもたらすこともあります。事故や天災で一瞬にして不幸に転じることだってあります。何がきっかけで戦火に巻き込まれるかわかりません。そういった悲劇の可能性があってもそれに直面するまでは皆楽しく暮らすのです。
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』はそういった異常と隣合わせの平凡な日常を生きる人々の話です。
突如出現した巨大円盤が特に何をするでもなく東京上空にとどまり続けて3年経った日本が舞台です。何もしてこないから特に戦争が起きるわけでもなく、円盤の下で普通に暮らす人々、円盤への対策兵器の軍備だけが拡充していく日本、時たま落ちてくる円盤を回収していく米軍など明確に何かが起こるわけでもなく不安だけが残り続ける世界が描かれます。
円盤によって侵害された日照権に対するデモ行進や、確証のないデマである円盤がもたらす病気に怯える人々の様子を見ていると、本作は明確に2011年3月11日の東日本大震災以降の作品なのだとわかります。原作は2014年から連載が始まっているのでこの見方は間違っていないでしょう。原作の完結は2022年ですが、連載終盤や映画化までの間にCOVID-19の感染拡大もあって、余計に本作が描いた世界はリアルなものとして迫ってきます。
主人公の女子高生の2人は現実の多くの人々と同じように病気のことも円盤のことも世界平和のこともほとんど大きく考えません。クローズドβテストが始まったゲームの方が大事ですし、SNSでバズっている投稿や芸能人のゴシップが最強の話題で、進学やクラスメイトとの恋愛は人生における大イベントです。自分たちがどうしようもない世界の大きな問題よりも、半径5メートルの小さな幸せを守りたいのは当たり前の感覚ですが、巨大な円盤という異常な状況が彼女たちが守りたいものが一瞬にして壊れるものであることを示していて不安が常にある作品でもあります。
異常と隣合わせの日常といえば『機動警察パトレイバー 2 the Movie』で押井守監督が描いた戦争が起きそうで、起きない異常な日常の状況にも似ていますが、この状況は近隣の国からいつミサイルが飛んでくるかわからず、いつ首都直下地震が起きるかも分からない現在の日本にも重なるもので、荒唐無稽な話と割り切ることは難しいと思います。
今まで書いてきた内容からは非常にシリアスで緊張感のある作風を想定されるかもしれませんが、脚本には吉田玲子さんは日常系の代表作「けいおん!」が参加されているからかベースにあるのは女子高生たちの平和な日常です。とはいえ、当然ながら平和なだけでは終わりません。日常の中で遭遇する世界を揺るがす巨大な事件が「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」の如く起きていきます。そこでは大友克洋の初期の作品「童夢」のような日常の風景の中で起きる超能力や子どもの暴力性もあれば、闇のドラえもんまで登場するカオス。
最後に日常感を支えるキャスティングについても書いておきます。主演の2人は幾田りらさん、あのさん。専業の声優ではない組み合わせと聞くと不安になる方もいると思いますが、その不安は杞憂に終わるでしょう。前章を見終わる頃にはこの2人しか考えられないぐらいにはハマっているのです。
幾田さんはYOASOBIのボーカルとして知られていますが、細田守監督の「竜とそばかすの姫」にも出演されていて、そこでも細田監督に「上手くない!?」と驚かせたといいます。あのさんはバラエティ番組などでご存知のとおり、独特なキャラクターの方ですので、本作で演じる中川凰蘭ことおんたんのエキセントリックなセリフが全く違和感なく言えています。音楽活動をされているお二人なので、当然主題歌も歌っています。
あと、忘れてはいけないのが2024年3月4日に亡くなられたTARAKOさんの出演。TARAKOさんにしか演じられないキャラクターを見事に演じきってらっしゃいます。最高のブラックジョークの部分でもあるのでお見逃しなく。
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