雑多庵 ~映画バカの逆襲~

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押切蓮介原作の同名漫画を映画化、しかも「コワすぎ」シリーズや『貞子 対 伽椰子』の白石晃士監督となれば双方のファンとしては期待しないわけにはいかない作品。見てみて納得の出来である。

原作の「サユリ」はコミックバーズにて2010年から2011年にかけて連載されたホラー漫画。最初は全2巻で出版されていたが、後に完全版として加筆修正されたものが1冊となって出版され直している。



ある一家が郊外にある中古の一軒家に引っ越してきた。

それまでアパートできょうだい3人、父母の5人で住んでいたのに加えて、祖父母を迎えた7人家族での夢のマイホームである。楽しい暮らしが始まるはずだったが、引っ越し初日から不穏な出来事が連続する。

電源を切ったはずの部屋のテレビは夜中に点灯し、末の弟は暗闇に何か異変を感じ、認知症が進んでいる祖母は誰もいないはずの部屋の片隅を見つめることが多くなった。この家、何かがおかしい・・・そう思い始めた頃には遅かった。父は心筋梗塞で突然死、その直後に奇行を始めた祖父も急死する事態となり、引っ越して1か月も経たないうちに家族は減っていく。そして、残された家族もいなくなった。残ったのは長男と祖母だけだ。

余談だが、父親役の梶原善は最近はBSフジ「ビルぶら!レトロ探訪」に出演されているのを見る機会が多かったので、善さん今日の建物はヤバいっすよ、、、と思ってみていた

邦画でよく見られる幽霊ものホラー作品は人間の側が幽霊の圧倒的な力に負けていくのが基本的な展開だ。貞子の呪いのビデオは何をしても拡散し続けるし、伽椰子の呪いは家に踏み入った誰も死から逃れられなくなる。人間は幽霊の前では無力だ。

そんな、幽霊ものホラーを見ていてフラストレーションを溜めていたのが押切蓮介だった。なぜ負け続けなければならないのか?反撃してもいいだろう!その思いから描かれたのが「サユリ」だった。

前半は心霊ホラーの恐怖展開の応酬と死の連続で絶望的な気持ちにさせられる作品だが、後半は残された家族による復讐が始まる。でもどうやって?単純なことだ。命を濃くするんだよ!それまでボンヤリしていた祖母は覚醒し、長男を鍛え始めるのだった!!



ほとんど根性論のような強引な対応手段だが、そこは「コワすぎ」シリーズで怪異をぶん殴る物理での勝負を挑んできた白石監督なだけあって、映画のトーンを変えてしまうことに一切の躊躇がない。

内を良くするために家を掃除し、外を良くするために学校にも行って人生を楽しむ。たっぷりの肉を喰らい、日々の走り込みと毎朝の太極拳で命を濃くするのだ。映画に登場させるにあたって、ジャニス・ジョプリンをイメージしてもらったという根岸季衣演じるババアがとにかくパワフルだ。単に元気なだけではなく、そこまでやるのか!?と思わされるクレイジーさもあって強烈なキャラクターだ。ババアの導きで強くなる長男と幽霊との対決の行方はぜひご覧いただきたい。

幽霊の負の念に負けないだけの陽の気を持つのが対抗策と言うのだが、これは日々を生きるにあたって重要なことでもある。暗い気持ちで過ごしていては状況を良くするのは難しいだろう。前向きになって、人生を打開するためにもよく寝てよく食べる。これができているだけでも何かは変わると思う。

本作を見た後で原作を読み直したが、実は映画化にあたって大幅にアレンジを加えた箇所が存在しており、「サユリ」に関するドラマの増強が行われている。幽霊ものの常として、幽霊は生きている間に受けた苦しみに対する怨念がある。原作でも描かれているものの、復讐劇としての要素が強いためにやや簡素な設定だった。映画ではより大きな背景が加えられることで幽霊ものとしてのドラマが強くなった。そのため、後半のトーンの変わり方を知っていたとしても、終盤は見たことがない展開が待っている。原作を知っている、知らないにかかわらずにオススメしたいエンタメたっぷりのホラー作品だ。
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