今回紹介するのはハリウッド一のシャレ乙男として有名なウェス・アンダーソン監督の新作『グランド・ブダペスト・ホテル』です
本作は時系列が少しややこしいのでそこをおさえつつあらすじ説明をしていきます
舞台は架空のヨーロッパの国ズブロフカ共和国。物語は亡くなった大作家が生前遺した小説『グランド・ブダペスト・ホテル』を、1980年代に存命だったころの作家自身が語るというもの。この時点で少しトリッキーですが、全体としては4つの時代に渡った話です。
現代、80年代ときて、作家がグランド・ブダペスト・ホテルに滞在した1960年代の話になります。かつては栄えたが、古びたホテルとなってしまったところに滞在する作家はホテルのオーナー、ゼロ・ムスタファと出会います。ムスタファは作家のことを気に入り、自分がホテルを手に入れた経緯を話し始めます。
そして語られるのが1930年代。ムスタファはその当時ベルボーイとしてホテルで働いていました。ムスタファにとって師であり、父代わりだった当時のコンシェルジュ、グスタヴ・H氏は彼目当てに外国からも常連のお金持ちのマダムが来るほどの人気者でした。最大の人気の秘訣は夜のおもてなし(笑) そんなこんなでホテルは大繁盛。世界有数の名ホテルと言われるほどでした。
順風満帆な生活だったあるとき、グスタヴの常連の一人であるマダム・Dが突然殺されてしまいます。グスタヴは愛するマダムのために屋敷に急行。そこで明らかになったのがマダムがグスタヴに家宝の絵を遺産として残したこと。これがきっかけとなってグスタヴの周囲で大変な事態が起きていくのです!
ウェス・アンダーソン監督作品の特徴は
・執拗なまでの左右対称の構図
・パステルカラーや薄いピンクや黄色といった柔らかい色使いによる色彩構成
・ミニチュアを意識させる(実際にミニチュアで撮った場面もあります)画作り
・小物のデザインがいちいち凝っていてお洒落
・常連俳優が個性的(ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、ジェイソン・シュワルツマン、ウィレム・デフォーなど)
・スローモーションを使って人が歩くところや走るとところをじっくり見せる演出
・狭い範囲に人が密集しているカットが多い
・6・70年代のポピュラー音楽を中心としたセンス抜群の選曲
・独特のオフビート(盛り上がりのない)なコメディ といったところでしょうか
映画ファンほど好きになる人が多いタイプの監督ですが、ヴィジュアルがカワイイからか、女性ウケも良いようです。
見た目の割にテーマは「中年の危機」や「思春期の悩み」「父との葛藤」といった真面目なものが多かったりするのも特徴です。そんな監督が新作で描こうとしたものは、戦争という圧倒的な暴力の被害者たちです。そんな風には見えないかもしれませんが、ナチの親衛隊のような人々に職務質問されたり、冤罪で収容所に入れられたりと普通に考えたらかなり深刻な場面があります。殺人事件もいくつも起きますが、どれもコメディとして演出されているので深刻そうには見えないのがポイント。これが1930年代というのもポイントで、第一次大戦と第二次大戦との戦間期であり、ナチスが台頭してきた時代にあたるのです。
では、何故こんなストーリーにしているのでしょう?そのヒントとしてエンドクレジットの直前にでるのが「この映画はステファン・ツヴァイクの生涯にヒントを得た」との字幕。これは映画評論家の町山智浩さんが指摘なさっていたことでもありますが、調べてみると確かにツヴァイクの生涯に着想を得たシナリオなのだと分かります。映画のシナリオの方を詳しく書いてしまうとネタバレになるので、ツヴァイクについて簡単に書きます。とは言ってもツヴァイクに関する知識は僕もほとんどないのであしからず。というのも、一時期は流行作家だったツヴァイクは今ではほとんど知られていないからです。
ツヴァイクはユダヤ人としてオーストリアで育ちました。メロドラマの小説で流行作家となっており、平和主義者としてヨーロッパの精神的統合の運動をしていましたが、1933年のヒトラー首相の就任からのユダヤ人迫害の開始から逃れてイギリスへ亡命。その後、アメリカ、ブラジルと転々とした後にブラジルで自殺してしまいます。1942年のことでした。『グランド・ブダペスト・ホテル』はツヴァイクの願った統合した世界をコンシェルジュのネットワークという形で表現し、平和の象徴としてホテルを描いているのです。こうしたことを理解した上で観るとただのドタバタコメディではないとご理解いただけるかと思います。
俳優の方から出たがるというウェス・アンダーソン監督作品ですが、今回のキャスティングはこれまたスゴイ。ものすごいチョイ役で割と有名な俳優を使っていたりします。オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、ジェイソン・シュワルツマン、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラムといった常連に加え、エイドリアン・ブロディ、前作『ムーンライズ・キングダム』から続投のエドワード・ノートン、ジュード・ロウ、シアーシャ・ローナン、レア・セドゥ(『アデル ブルーは熱い色』で女性同士のパワフルなプレイを見せてくれたあの人)、ティルダ・スウィントン(『スノー・ピアサー』に続いてのBBAメイク!)、そしてグスタヴ役にレイフ・ファインズと名前を羅列するだけでも豪華すぎる布陣を見事に活かしたキャラクター設定も見事です。
あと細かい話ではありますが、本作は画面サイズの違いで時代の変化を表現していたりします。30年代はスタンダードサイズ、60年代はシネスコ、現在はビスタサイズといった感じ。こういう演出からも監督の映画愛が伝わってきますね。画面サイズの演出はテレビで見ていても伝わりにくいかと思うので、ぜひ劇場でご覧ください!キャラが立った映画見てー、と思っている人にもお勧めです!エンド・クレジットも凝っているので最後の最後まで飽きずに観られるかと思いますよ!
本作は時系列が少しややこしいのでそこをおさえつつあらすじ説明をしていきます
舞台は架空のヨーロッパの国ズブロフカ共和国。物語は亡くなった大作家が生前遺した小説『グランド・ブダペスト・ホテル』を、1980年代に存命だったころの作家自身が語るというもの。この時点で少しトリッキーですが、全体としては4つの時代に渡った話です。
現代、80年代ときて、作家がグランド・ブダペスト・ホテルに滞在した1960年代の話になります。かつては栄えたが、古びたホテルとなってしまったところに滞在する作家はホテルのオーナー、ゼロ・ムスタファと出会います。ムスタファは作家のことを気に入り、自分がホテルを手に入れた経緯を話し始めます。
そして語られるのが1930年代。ムスタファはその当時ベルボーイとしてホテルで働いていました。ムスタファにとって師であり、父代わりだった当時のコンシェルジュ、グスタヴ・H氏は彼目当てに外国からも常連のお金持ちのマダムが来るほどの人気者でした。最大の人気の秘訣は夜のおもてなし(笑) そんなこんなでホテルは大繁盛。世界有数の名ホテルと言われるほどでした。
順風満帆な生活だったあるとき、グスタヴの常連の一人であるマダム・Dが突然殺されてしまいます。グスタヴは愛するマダムのために屋敷に急行。そこで明らかになったのがマダムがグスタヴに家宝の絵を遺産として残したこと。これがきっかけとなってグスタヴの周囲で大変な事態が起きていくのです!
ウェス・アンダーソン監督作品の特徴は
・執拗なまでの左右対称の構図
・パステルカラーや薄いピンクや黄色といった柔らかい色使いによる色彩構成
・ミニチュアを意識させる(実際にミニチュアで撮った場面もあります)画作り
・小物のデザインがいちいち凝っていてお洒落
・常連俳優が個性的(ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、ジェイソン・シュワルツマン、ウィレム・デフォーなど)
・スローモーションを使って人が歩くところや走るとところをじっくり見せる演出
・狭い範囲に人が密集しているカットが多い
・6・70年代のポピュラー音楽を中心としたセンス抜群の選曲
・独特のオフビート(盛り上がりのない)なコメディ といったところでしょうか
映画ファンほど好きになる人が多いタイプの監督ですが、ヴィジュアルがカワイイからか、女性ウケも良いようです。
見た目の割にテーマは「中年の危機」や「思春期の悩み」「父との葛藤」といった真面目なものが多かったりするのも特徴です。そんな監督が新作で描こうとしたものは、戦争という圧倒的な暴力の被害者たちです。そんな風には見えないかもしれませんが、ナチの親衛隊のような人々に職務質問されたり、冤罪で収容所に入れられたりと普通に考えたらかなり深刻な場面があります。殺人事件もいくつも起きますが、どれもコメディとして演出されているので深刻そうには見えないのがポイント。これが1930年代というのもポイントで、第一次大戦と第二次大戦との戦間期であり、ナチスが台頭してきた時代にあたるのです。
では、何故こんなストーリーにしているのでしょう?そのヒントとしてエンドクレジットの直前にでるのが「この映画はステファン・ツヴァイクの生涯にヒントを得た」との字幕。これは映画評論家の町山智浩さんが指摘なさっていたことでもありますが、調べてみると確かにツヴァイクの生涯に着想を得たシナリオなのだと分かります。映画のシナリオの方を詳しく書いてしまうとネタバレになるので、ツヴァイクについて簡単に書きます。とは言ってもツヴァイクに関する知識は僕もほとんどないのであしからず。というのも、一時期は流行作家だったツヴァイクは今ではほとんど知られていないからです。
ツヴァイクはユダヤ人としてオーストリアで育ちました。メロドラマの小説で流行作家となっており、平和主義者としてヨーロッパの精神的統合の運動をしていましたが、1933年のヒトラー首相の就任からのユダヤ人迫害の開始から逃れてイギリスへ亡命。その後、アメリカ、ブラジルと転々とした後にブラジルで自殺してしまいます。1942年のことでした。『グランド・ブダペスト・ホテル』はツヴァイクの願った統合した世界をコンシェルジュのネットワークという形で表現し、平和の象徴としてホテルを描いているのです。こうしたことを理解した上で観るとただのドタバタコメディではないとご理解いただけるかと思います。
俳優の方から出たがるというウェス・アンダーソン監督作品ですが、今回のキャスティングはこれまたスゴイ。ものすごいチョイ役で割と有名な俳優を使っていたりします。オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、ジェイソン・シュワルツマン、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラムといった常連に加え、エイドリアン・ブロディ、前作『ムーンライズ・キングダム』から続投のエドワード・ノートン、ジュード・ロウ、シアーシャ・ローナン、レア・セドゥ(『アデル ブルーは熱い色』で女性同士のパワフルなプレイを見せてくれたあの人)、ティルダ・スウィントン(『スノー・ピアサー』に続いてのBBAメイク!)、そしてグスタヴ役にレイフ・ファインズと名前を羅列するだけでも豪華すぎる布陣を見事に活かしたキャラクター設定も見事です。
あと細かい話ではありますが、本作は画面サイズの違いで時代の変化を表現していたりします。30年代はスタンダードサイズ、60年代はシネスコ、現在はビスタサイズといった感じ。こういう演出からも監督の映画愛が伝わってきますね。画面サイズの演出はテレビで見ていても伝わりにくいかと思うので、ぜひ劇場でご覧ください!キャラが立った映画見てー、と思っている人にもお勧めです!エンド・クレジットも凝っているので最後の最後まで飽きずに観られるかと思いますよ!
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