今回紹介するのは『クラウド アトラス』。
タイトルは日本人の妻を持つ原作者のミッチェル氏が、日本人の作曲家一柳慧(小野ヨーコの最初の夫)のピアノ曲「雲の表情」の英題“Cloud Atlas”からつけたとのことです。
予告編
今作では六つの異なる時代の物語が同時進行します。文章となっていればわかりやすいとは思いますが、映画の場合は煩雑になりすぎて観客が混乱してしまう可能性があります。ですが、今作はその問題を編集や脚本、演出を工夫することでクリアできています。とはいえ、六つも話を平行させて3時間以内の映画としているので、描き足りない部分、設定に強引な点が見受けられます。
六つの物語を紹介
1849年、婚約者の父親が奴隷商人のアダム・ユーイングはポリネシアまで奴隷売買に行った。黒人奴隷たちの悲惨な状況を目の当たりにして心を痛め、体調を崩したユーイングに医師のグースは投薬治療を行う。アメリカへの帰路の途中も回復はせず、むしろ悪化していくユーイング。そこに密航者の黒人奴隷が現れて・・・
1936年代、戦間期のスコットランドで作曲家として名を成すことを願っているフロビシャーは著名な作曲家エアズの採譜係として住み込みで働き始める。ゲイであるフロビシャーは恋人のシックスミスに手紙で連絡を取りつつ、自分でも作曲を始める。その曲名は『クラウド アトラス 六重奏』。傑作に近づいていく「クラウドアトラス」だったが、エアズは自分の曲だと主張してきて・・・
1973年、雑誌記者のルイサ・レイは高齢となったシックススミスと出会う。彼は自分の勤める企業の不正を暴こうとしていた。だが、シックススミスは暗殺されてしまう。事件の真相を究明しようと動き出したレイもまた暗殺者に狙われてしまうのだった・・・
2012年、出版者のキャヴェンデッシュは出版している作家が殺人事件を起こしたことで本がバカ売れ。長年の負債が返済できてウハウハだったが作家が手下を使って多額の報酬を要求。借金の返済で有り金を使い切っていたキャヴェンデッシュは兄に助けを求める。だが、紹介された隠れ家は暴力看護婦のいる老人ホーム!キャヴェンデッシュの脱出作戦が始まる!
2144年、温暖化の影響でソウルは水没、ネオソウルが建設されている。この社会では遺伝子操作で作られた合成人間は奴隷的待遇で労働させられている。合成人間のソンミ451はある日、革命軍のチャン・ヘシュに助けられる。初めて自由な身となったソンミ。だが、外の世界で合成人間がモノとしてしか扱われていない事実を知ってしまう。このことから革命軍の象徴的存在として活躍することを決意するソンミだったが・・・
ソンミの活躍から数百年。核戦争の後に文明が崩壊したある島でのこと。人食い部族の襲撃におびえながら暮らしている羊飼いのザックリーの家に「昔の人たち」の技術を持った女性、メロニムがやってくる。村人から「悪魔の山」と呼ばれる山へのガイドを求める彼女を姪の命を助けることを条件に引き受けたザックリーだったが、自身の暗黒面に脅かされ続けてしまう。ザックリーは暗黒面に打ち勝つことはできるのか?メロニムの目的は何なのか?
六つのストーリー独立していますが、各時代へのリンクがあります。ユーイングの航海日誌は後に出版され、フロビシャーが愛読していたり、「クラウドアトラス 六重奏」をレイが聴いたりします。
今作の特徴はメインキャスト全員が一人何役もこなしていること。各時代に全く異なる役で登場します。それは年齢・人種、場合によっては性別さえ異なります。黒人女優のハル・ベリーがユダヤ系白人を演じるのは驚きでした。かなり気合の入った特殊メイクなので最後まで誰かわからない役もあったほどです。とはいえ、「これはちょっと違うだろう・・・」となったり、爆笑もののメイクもあるので完璧とは言えません。白人へのアジア人メイクが一重まぶたを強調しすぎだったりします。黒人やアジア人の認識が少し古臭い感がありました。無理があるとはいえ、一人何役もこなすのは理由があります。それぞれの時代の人々はその前の時代に様々な運命にほんろうされ、死んだりした結果、生まれ変わった姿なのです。前の時代に起こした悪行は「業」として影響し、善行もまた影響します。悪い役ばかりのヒュー・グラントやヒューゴ・ウィービングに対して、主演のトム・ハンクスは悪い役から始まってだんだん良くなっていきます。愛もまた受け継がれていくのも面白い。時代が変わっても結ばれる壮大さはSFならではでしょう。世界を変えるのは個人の愛であり、勇気であるというメッセージは壮大な世界観によって自然と受け入れられるようになっています。
トム・ハンクス六変化!
監督はラナ&アンディ・ウォシャウスキーとトム・ティクヴァ。ウォシャウスキー兄弟はマトリックスシリーズで有名ですね。制作チームを二つに分けたとのことですが、各時代ごとの雰囲気を変えているのが面白い。70年代は『黒いジャガー』や『ダーティ・ハリー』の雰囲気、2012年はドタバタコメディ(ちょっと浮いている気もします。)、未来は『ブレード・ランナー』や『未来世紀ブラジル』、『マトリックス』などの世界観をミックスした感じ、文明が退化した未来の世界は『アポカリプト』のようで多彩なビジュアルが堪能できます。その分、雰囲気がコロコロ変わって一貫性がなく散漫な印象もあるかもしれませんが、挑戦にあふれた本作は一見の価値あります。
締めくくりに魂は受け継がれることを歌った曲を 『The Spirit Carries On』by Dream Theater
タイトルは日本人の妻を持つ原作者のミッチェル氏が、日本人の作曲家一柳慧(小野ヨーコの最初の夫)のピアノ曲「雲の表情」の英題“Cloud Atlas”からつけたとのことです。
予告編
今作では六つの異なる時代の物語が同時進行します。文章となっていればわかりやすいとは思いますが、映画の場合は煩雑になりすぎて観客が混乱してしまう可能性があります。ですが、今作はその問題を編集や脚本、演出を工夫することでクリアできています。とはいえ、六つも話を平行させて3時間以内の映画としているので、描き足りない部分、設定に強引な点が見受けられます。
六つの物語を紹介
1849年、婚約者の父親が奴隷商人のアダム・ユーイングはポリネシアまで奴隷売買に行った。黒人奴隷たちの悲惨な状況を目の当たりにして心を痛め、体調を崩したユーイングに医師のグースは投薬治療を行う。アメリカへの帰路の途中も回復はせず、むしろ悪化していくユーイング。そこに密航者の黒人奴隷が現れて・・・
1936年代、戦間期のスコットランドで作曲家として名を成すことを願っているフロビシャーは著名な作曲家エアズの採譜係として住み込みで働き始める。ゲイであるフロビシャーは恋人のシックスミスに手紙で連絡を取りつつ、自分でも作曲を始める。その曲名は『クラウド アトラス 六重奏』。傑作に近づいていく「クラウドアトラス」だったが、エアズは自分の曲だと主張してきて・・・
1973年、雑誌記者のルイサ・レイは高齢となったシックススミスと出会う。彼は自分の勤める企業の不正を暴こうとしていた。だが、シックススミスは暗殺されてしまう。事件の真相を究明しようと動き出したレイもまた暗殺者に狙われてしまうのだった・・・
2012年、出版者のキャヴェンデッシュは出版している作家が殺人事件を起こしたことで本がバカ売れ。長年の負債が返済できてウハウハだったが作家が手下を使って多額の報酬を要求。借金の返済で有り金を使い切っていたキャヴェンデッシュは兄に助けを求める。だが、紹介された隠れ家は暴力看護婦のいる老人ホーム!キャヴェンデッシュの脱出作戦が始まる!
2144年、温暖化の影響でソウルは水没、ネオソウルが建設されている。この社会では遺伝子操作で作られた合成人間は奴隷的待遇で労働させられている。合成人間のソンミ451はある日、革命軍のチャン・ヘシュに助けられる。初めて自由な身となったソンミ。だが、外の世界で合成人間がモノとしてしか扱われていない事実を知ってしまう。このことから革命軍の象徴的存在として活躍することを決意するソンミだったが・・・
ソンミの活躍から数百年。核戦争の後に文明が崩壊したある島でのこと。人食い部族の襲撃におびえながら暮らしている羊飼いのザックリーの家に「昔の人たち」の技術を持った女性、メロニムがやってくる。村人から「悪魔の山」と呼ばれる山へのガイドを求める彼女を姪の命を助けることを条件に引き受けたザックリーだったが、自身の暗黒面に脅かされ続けてしまう。ザックリーは暗黒面に打ち勝つことはできるのか?メロニムの目的は何なのか?
六つのストーリー独立していますが、各時代へのリンクがあります。ユーイングの航海日誌は後に出版され、フロビシャーが愛読していたり、「クラウドアトラス 六重奏」をレイが聴いたりします。
今作の特徴はメインキャスト全員が一人何役もこなしていること。各時代に全く異なる役で登場します。それは年齢・人種、場合によっては性別さえ異なります。黒人女優のハル・ベリーがユダヤ系白人を演じるのは驚きでした。かなり気合の入った特殊メイクなので最後まで誰かわからない役もあったほどです。とはいえ、「これはちょっと違うだろう・・・」となったり、爆笑もののメイクもあるので完璧とは言えません。白人へのアジア人メイクが一重まぶたを強調しすぎだったりします。黒人やアジア人の認識が少し古臭い感がありました。無理があるとはいえ、一人何役もこなすのは理由があります。それぞれの時代の人々はその前の時代に様々な運命にほんろうされ、死んだりした結果、生まれ変わった姿なのです。前の時代に起こした悪行は「業」として影響し、善行もまた影響します。悪い役ばかりのヒュー・グラントやヒューゴ・ウィービングに対して、主演のトム・ハンクスは悪い役から始まってだんだん良くなっていきます。愛もまた受け継がれていくのも面白い。時代が変わっても結ばれる壮大さはSFならではでしょう。世界を変えるのは個人の愛であり、勇気であるというメッセージは壮大な世界観によって自然と受け入れられるようになっています。
トム・ハンクス六変化!
監督はラナ&アンディ・ウォシャウスキーとトム・ティクヴァ。ウォシャウスキー兄弟はマトリックスシリーズで有名ですね。制作チームを二つに分けたとのことですが、各時代ごとの雰囲気を変えているのが面白い。70年代は『黒いジャガー』や『ダーティ・ハリー』の雰囲気、2012年はドタバタコメディ(ちょっと浮いている気もします。)、未来は『ブレード・ランナー』や『未来世紀ブラジル』、『マトリックス』などの世界観をミックスした感じ、文明が退化した未来の世界は『アポカリプト』のようで多彩なビジュアルが堪能できます。その分、雰囲気がコロコロ変わって一貫性がなく散漫な印象もあるかもしれませんが、挑戦にあふれた本作は一見の価値あります。
締めくくりに魂は受け継がれることを歌った曲を 『The Spirit Carries On』by Dream Theater
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