今年のアカデミー賞4部門(作品、監督、脚本、撮影)受賞の話題の作品をさっそく見てきた。
パロディ映画
1990年代にヒットしたという設定の架空のヒーロー映画『バードマン』の主演だったオッサン俳優が演技派としての転換を狙ってブロードウェイ劇の脚本&主演をしようとするのだが、実力はあっても面倒を起こしまくる共演者、ドラッグ依存症治療施設から出たばかりの娘、なにより自身の内なる「バードマン」の幻影に悩まされまくる!果たして舞台は成功するのか!バードマンの呪縛から逃れることはできるのか!オッサンの男を上げるための戦いが始まる!
って話。
話は分かりやすいのだが、バードマンの幻影に悩まされていくオッサンの幻覚を見ているのか、マジなのか良く分からなくなっていく幻想的な感覚と、ワンカット劇の形式が生み出すドキュメンタリー感というか、映画なのに舞台劇を切り取っているような雰囲気との組み合わせが本作の特徴。
一応コメディなのだが、監督が『バベル』や『21グラム』といった重々しくて真面目な映画ばかりをつくってきたアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥだからか、アメリカのコメディ映画によくあるような酒に酔った勢いで作ったような楽しい雰囲気全開にはなっておらず、その手の映画によく出ているザック・ガリフィアナキスも今回は控えめだった。普段と演技が違うので知らずに見ていると気付かないかもしれないレベルで控えめである。確かに大笑いできるシーンはあるものの、真面目なトーンの方が目立つため、笑いに対して過度な期待をするのは禁物だ。あくまでオッサンの人生の悲哀をお笑い混じりに描いたものと考えるべし。
『ハングオーバー』のガキがそのままオッサンになったようなヒゲデブの演技で有名になったザック・ガリフィアナキス
事前に知っておくべき重要ポイントは、主演のマイケル・キートンが1990年代初頭に作られたティム・バートン監督の『バットマン』に出ていたこと。今ではクリストファー・ノーランのダークナイト三部作のほうが有名だと思うが、ティム・バートン版の『バットマン』と『バットマン・リターンズ』の二本はノーラン版にない、登場人物全員がダークで狂った雰囲気あるので筆者的にはこちらの方が好きだ。
バードマンの見た目はこれとブラックスワンの黒鳥を意識してそう
最近はアメコミ映画が流行っていて、特にマーベルは巨額の予算をかけて娯楽度の高い映画を次々と送り出すヒット生産工場的な状態だし、その主演俳優は華々しい大スターとなっていくが、バートン版バットマンはダークすぎたのが問題だったのか、マイケル・キートンに華があまりなかったからなのか、とにかくもマイケル・キートンはその後大スターにはならなかった・・・このことを知っていると『バードマン』の設定がほとんどパロディとなっていることがお分かりいただけるだろう。設定に限らずストーリーそのものがハリウッド批評にもなっていて、後半の唐突にド派手な展開とバードマンのセリフで伝わるハリウッド批判的なメッセージが「オッサンが頑張るだけの話やろ~」、と思っていた筆者としては面白かった。
舞台の準備を進める役者がおかしくなっていく話と言えば、『ブラックスワン』を思い出す人もいると思うが、ブラックスワンのホラー的な部分を抜いて、コメディ要素とファンタジー要素を増量した感じと思ってもらうといいかも。
超絶撮影
本作のビジュアル的な凄さはカットの切れ間がほぼ存在しないこと。2時間近くカットが切り替わらずに時間経過も滑らかに表現されるので映画を観慣れている人ほど「へ?!」となること必至。これは一発撮りで全編撮ったわけではなく、長くカメラを回して、後でCG処理で切れ間がないように編集することで実現したそうな。『ゼロ・グラビティ』も同じ手法で15分もの長回しを実現していた。そもそも同じ撮影監督だ。
この撮影監督のエマニュエル・ルベツキは天才カメラマンとの定評がある人で、毎度美しすぎる画作りをするテレンス・マリック監督の分かりにくすぎるけど最高に美しい『ツリー・オブ・ライフ』で素晴らしい仕事をしているし、筆者が大好物の『トゥモローワールド』ではCG合成と組み合わた長回しを2006年の時点でやっていた。
聴きどころはアントニオ・サンチェス!
いろいろ観るポイントはあると思うが、撮影やパロディ的な部分よりも面白かったのは音の演出。
BGMかと思っていたら、画面内にその音源となるような演奏する人物が映りこんだり、タイトルシーンで音に合わせて文字が出てきたり、主人公が映画の音響を指示する場面があるなど、映画音響について研究している身としては「おおっ!」となる場面がいくつもあった。長回しに関してはある程度予想がついた(もちろんどうやって撮ったか分からないような超絶的場面もあった)が、この音の演出は予想外。しかも音楽はほとんどフリージャズ的なドラムソロがほとんど。クレジットを見てみると、なんと、アントニオ・サンチェスが叩いているではないか!まぁ、ジャズを聞かない人にはどーでもいいことかもしれないが、ジャズにある程度詳しい人、もしくはドラマーならばこの興奮が分かるはずだ!
監督が場面の説明→サンチェスがパターンを作る→監督が荒編集にそのパターンを当てはめる→サンチェスが荒編集を見て監督と相談して修正
という行程を経て作られた本作のサントラはドラマー諸氏ならば買いたくなること必至。楽器は変わるが、伝説的トランペット奏者のマイルス・デイヴィスは『死刑台のエレベーター』の音楽を担当した際、ラッシュフィルム(現場で撮ったフィルムを現像した未編集の映像)を見てアドリブで音を入れたと言われている。
アントニオ・サンチェスのドラムソロ。パット・メセニー・グループでの活躍が特に有名ですかね。
ジャズ映画として見ることもできるので、音楽好きもチェックするといいのではと。
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パロディ映画
1990年代にヒットしたという設定の架空のヒーロー映画『バードマン』の主演だったオッサン俳優が演技派としての転換を狙ってブロードウェイ劇の脚本&主演をしようとするのだが、実力はあっても面倒を起こしまくる共演者、ドラッグ依存症治療施設から出たばかりの娘、なにより自身の内なる「バードマン」の幻影に悩まされまくる!果たして舞台は成功するのか!バードマンの呪縛から逃れることはできるのか!オッサンの男を上げるための戦いが始まる!
って話。
話は分かりやすいのだが、バードマンの幻影に悩まされていくオッサンの幻覚を見ているのか、マジなのか良く分からなくなっていく幻想的な感覚と、ワンカット劇の形式が生み出すドキュメンタリー感というか、映画なのに舞台劇を切り取っているような雰囲気との組み合わせが本作の特徴。
一応コメディなのだが、監督が『バベル』や『21グラム』といった重々しくて真面目な映画ばかりをつくってきたアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥだからか、アメリカのコメディ映画によくあるような酒に酔った勢いで作ったような楽しい雰囲気全開にはなっておらず、その手の映画によく出ているザック・ガリフィアナキスも今回は控えめだった。普段と演技が違うので知らずに見ていると気付かないかもしれないレベルで控えめである。確かに大笑いできるシーンはあるものの、真面目なトーンの方が目立つため、笑いに対して過度な期待をするのは禁物だ。あくまでオッサンの人生の悲哀をお笑い混じりに描いたものと考えるべし。
『ハングオーバー』のガキがそのままオッサンになったようなヒゲデブの演技で有名になったザック・ガリフィアナキス
事前に知っておくべき重要ポイントは、主演のマイケル・キートンが1990年代初頭に作られたティム・バートン監督の『バットマン』に出ていたこと。今ではクリストファー・ノーランのダークナイト三部作のほうが有名だと思うが、ティム・バートン版の『バットマン』と『バットマン・リターンズ』の二本はノーラン版にない、登場人物全員がダークで狂った雰囲気あるので筆者的にはこちらの方が好きだ。
バードマンの見た目はこれとブラックスワンの黒鳥を意識してそう
最近はアメコミ映画が流行っていて、特にマーベルは巨額の予算をかけて娯楽度の高い映画を次々と送り出すヒット生産工場的な状態だし、その主演俳優は華々しい大スターとなっていくが、バートン版バットマンはダークすぎたのが問題だったのか、マイケル・キートンに華があまりなかったからなのか、とにかくもマイケル・キートンはその後大スターにはならなかった・・・このことを知っていると『バードマン』の設定がほとんどパロディとなっていることがお分かりいただけるだろう。設定に限らずストーリーそのものがハリウッド批評にもなっていて、後半の唐突にド派手な展開とバードマンのセリフで伝わるハリウッド批判的なメッセージが「オッサンが頑張るだけの話やろ~」、と思っていた筆者としては面白かった。
舞台の準備を進める役者がおかしくなっていく話と言えば、『ブラックスワン』を思い出す人もいると思うが、ブラックスワンのホラー的な部分を抜いて、コメディ要素とファンタジー要素を増量した感じと思ってもらうといいかも。
超絶撮影
本作のビジュアル的な凄さはカットの切れ間がほぼ存在しないこと。2時間近くカットが切り替わらずに時間経過も滑らかに表現されるので映画を観慣れている人ほど「へ?!」となること必至。これは一発撮りで全編撮ったわけではなく、長くカメラを回して、後でCG処理で切れ間がないように編集することで実現したそうな。『ゼロ・グラビティ』も同じ手法で15分もの長回しを実現していた。そもそも同じ撮影監督だ。
この撮影監督のエマニュエル・ルベツキは天才カメラマンとの定評がある人で、毎度美しすぎる画作りをするテレンス・マリック監督の分かりにくすぎるけど最高に美しい『ツリー・オブ・ライフ』で素晴らしい仕事をしているし、筆者が大好物の『トゥモローワールド』ではCG合成と組み合わた長回しを2006年の時点でやっていた。
Tribute to Emmanuel Lubezki from Jorge Luengo Ruiz on Vimeo.
エマニュエル・ルベツキが担当した作品で構成されたクリップ。これを見ればいかにいい仕事をする人か分かるはず聴きどころはアントニオ・サンチェス!
いろいろ観るポイントはあると思うが、撮影やパロディ的な部分よりも面白かったのは音の演出。
BGMかと思っていたら、画面内にその音源となるような演奏する人物が映りこんだり、タイトルシーンで音に合わせて文字が出てきたり、主人公が映画の音響を指示する場面があるなど、映画音響について研究している身としては「おおっ!」となる場面がいくつもあった。長回しに関してはある程度予想がついた(もちろんどうやって撮ったか分からないような超絶的場面もあった)が、この音の演出は予想外。しかも音楽はほとんどフリージャズ的なドラムソロがほとんど。クレジットを見てみると、なんと、アントニオ・サンチェスが叩いているではないか!まぁ、ジャズを聞かない人にはどーでもいいことかもしれないが、ジャズにある程度詳しい人、もしくはドラマーならばこの興奮が分かるはずだ!
監督が場面の説明→サンチェスがパターンを作る→監督が荒編集にそのパターンを当てはめる→サンチェスが荒編集を見て監督と相談して修正
という行程を経て作られた本作のサントラはドラマー諸氏ならば買いたくなること必至。楽器は変わるが、伝説的トランペット奏者のマイルス・デイヴィスは『死刑台のエレベーター』の音楽を担当した際、ラッシュフィルム(現場で撮ったフィルムを現像した未編集の映像)を見てアドリブで音を入れたと言われている。
アントニオ・サンチェスのドラムソロ。パット・メセニー・グループでの活躍が特に有名ですかね。
ジャズ映画として見ることもできるので、音楽好きもチェックするといいのではと。
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